或ル国ノ話

12.embraces her from the back



男は女を後ろから抱き締める。

ひそやかな呼吸音がなければ、女は生温かい死体のようだ。
体を起こせば、腫れあがった右腕は力なく落ち、座らない首が深く傾ぐ。 女の前髪を払う。
相変わらず両眼は閉じられ、高熱が続いている。
痛みに反応するのか、時折まぶたが痙攣する。

膝裏と背に手をあてがい、持ち上げる。



唐突に気づく。



女の体はひどく軽い。今まで思っていたよりも更に。

「俺に従わないから、こんなことになる」

呟きに、女の答えはない。

「やはり、お前は馬鹿だ」

手術室に運ぶ前に、男はもう一度女を後ろから抱き締めた。



脱稿 2004.10.16