男は女を後ろから抱き締める。
ひそやかな呼吸音がなければ、女は生温かい死体のようだ。
体を起こせば、腫れあがった右腕は力なく落ち、座らない首が深く傾ぐ。
相変わらず両眼は閉じられ、高熱が続いている。
痛みに反応するのか、時折まぶたが痙攣する。
膝裏と背に手をあてがい、持ち上げる。
唐突に気づく。
女の体はひどく軽い。今まで思っていたよりも更に。
「俺に従わないから、こんなことになる」
呟きに、女の答えはない。
「やはり、お前は馬鹿だ」
手術室に運ぶ前に、男はもう一度女を後ろから抱き締めた。
脱稿 2004.10.16