GF基地で盛大に行われた『デススティンガー&ザウラー&縦巻きロール騒動解決おめでとう』宴会の、翌朝。
格納庫から、ライトニングサイクスが出て行く。
バン・フライハイト隊員は、格納庫のキャットウォークからそれを見送っていた。
「行くの?」
「フィーネ、なんでここに」
「なんとなく。アーバインの顔、ルドルフの戴冠式の前の日と同じ感じだったから」
「そっか……」
「ムンベイも今日出るって言ってたわ」
「一応、終わったんだもんな」
「デスザウラーも、とりあえず壊れたみたいだし」
「……あれ、前に一度壊したんだよな」
「そうね」
「そのうちまた復活しそうだな」
「そのときは悪用されないようにしなければね」
「そーだな。……あれ?
レイブンのジェノブレイカーって、悪用されてないことになるのか?」
「デスザウラー戦に協力した事で、以前の各基地破壊については追求しないことにするんですって」
「ジェノブレイカーはレイブンが持ったまま?」
「……どうするのかしらね。
レイブンとリーゼに勝てるゾイド乗りって、いるのかしら?」
「俺はあんまり戦いたくないなぁ」
ライトニングサイクスがぐっと腰をおろして力を溜め―――走り出す。
あっという間に、その姿は小さくなり、消えた。巻き上げた砂塵だけが、残る。
バンとフィーネは、それをずっと見ていた。
「行ってしまったわね」
「ああ」
「ライトニングサイクスって、帝国製でしょ」
「ああ」
「ねぇ」
「うん?」
「定期的にデータを提供する契約で、アーバインに引き渡されたそうよ」
「へぇ」
「シュバルツ大佐がいろいろやってくれたみたい」
「シュバルツが?
……帝国軍人なのになぁ」
「そうね」
フィーネがバンの顔を覗き込んだ。
「ねぇ、バン」
「んー?」
「どうして上着のボタンが開いているの?
いつもは閉めているのに」
「…………………………あははははは」
「それに、すごくすっきりした顔をしているわ。
『脂が抜けている』って言うのかしら」
「…………………………はははははは」
ライトニングサイクスの振動がアーバインの腰に響く。
「痛ぇ」
CARURURURRRRRRRR
サイクスが鳴く。
「大丈夫だ。気にすんな、相棒」
深くため息をつく。
眠いしだるい。
向かう方向を設定して自動操縦にする。
「あー……おい。マジかよ」
顔を覆う。
「ガキのくせして、やることだけは一人前だな」
ため息をまた一つついた。
『……おい、バン。お前何やってんだよ』
[宴会から抜け出し寝ていたアーバインは、じっと見詰めるバンの気配で起こされた。]
『ナニってアーバイン見てんだぜ』
『…わけわかんねぇこと言ってねぇで、寝ろ』
『お前さ、明日出発するんだろ?』
『…………まぁな。なんで分かった?』
『荷物がまとまってんじゃんかよ』
『……。知ってんだったら寝かせろ』
『なぁ、アーバイン』
[アーバインは上半身を起こす。バンがベッドに腰掛ける。]
『なんだ』
『抱いてもいいか?』
『…………………ああ?』
『いやぁ、お前また旅にでるんだろ?
今逃したらチャンスがいつあるかわかんないしさ』
『チャンスってお前、』
『本当は眠ってるうちにいろいろしようかって思ったんだけどさ。
一応聞いとかないと後が怖いしさ』
『いろいろってお前、』
『なー、アーバイン。駄目か?』
[じぃっとアーバインを見詰めつづけるバン。アーバインは自分の頬をつねる。]
『痛っ……夢じゃねぇな』
『あ、ひっでぇ』
『お前、意味わかって言ってんのか?』
『当たり前だろー、馬鹿にすんなよ。セックスしようって言ってんだよ』
[恐ろしいものを目の当たりにしたような目でバンを見るアーバイン。]
『俺は、男だぞ』
『そーだな』
『お前も男だろうがっ』
『そーなんだよなー。俺もその辺は結構悩んだんだけど……。
どーもアーバインだとオッケーみたいなんだ』
『ってなんでそうなる!?』
『いやぁ、トーマとかシュバルツ(兄)みたいな顔の綺麗なヤツ見ても別に感じないんだけどさ。
アーバインなら何でかタつんだよな〜』
[ベルトを外そうとしたバンを、アーバインは力の限り蹴り飛ばす。]
『いってーな!』
『アホか!
酔っ払ってんのもいい加減にしろ!!』
『酔ってないって!』
『酔っ払いは必ずそう言うんだよ!』
[バンはアーバインに素早くにじり寄り、アーバインを押し倒した。]
『じゃあ酔っ払いでもいいぜ。
アーバイン。
俺、お前を抱きたい』
『……バン、てめぇ、マジだな』
『なぁ、アーバイン。駄目か』
[バンがアーバインの両肩を抑えて拘束したまま尋ねる。アーバインは身動きできない。]
アーバインはサイクスのコクピットで頭を抱えた。
「どうして俺は許したんだ……?」
酒は飲んでいた。しかし判断が鈍るほどでもなかった。
「あの馬鹿の目がいけねぇんだな」
(押し倒しておきながらビクつきやがって。お前は野良ゾイドか何かか?)
不安そうだった。どこか、親に捨てられた子供のような、戦闘で傷つき、乗り捨てられたゾイドのような雰囲気だったのだ。
(……………のわりには、潤滑オイルまで用意してやがって。誰だ? 変な入れ知恵した奴は)
許したら即座にこちらの服を脱がし始め、その手つきには微塵もためらいがなかった。
かなり用意周到だった。
不安そうにしてたくせに、その用意の良さが奇妙に思えた。
(……痛くなかっただけましか)
しかし。
アーバインは深くため息をつく。
「……ガキにヤられてどうする……」
今朝は爆睡しているバンを、ベッドから蹴り落としてやった。
それでも目覚めなかったので物凄くむかつき、ジークを連れて行こうかと思ったが、フィーネが可哀相なのでやめた。
挨拶もせずにサイクスに乗った。
次はどんな顔であわせればいいのやら。
「ったく。……まず街で薬買わねぇと」
アーバインの悩みは、深い。
2001.12.26 脱稿
(初出:『Days』より)
2008.11.09 改稿