「ほーーーっほっほっほっ!」
              ―――スティンガー


※技術者ハイネル×盗賊スティンガー襲い受(R18)。嫌いな方は飛ばしてください。



―――その時彼は、限りなくヲトメだった。



「うふふふふふふふふふふふふふ。準備完了v」
 左手の人差し指には幅広の指輪、右手の薬指には細めの指輪を2つ。両手首・両腕には2連の金環をそれぞれ。剥きだしのうなじにはこれまた2連の金のネックレス。きれいにやすりをかけた爪で外はねカールの黒髪を払い、スティンガ―はコンパクトの鏡をのぞき込む。
「ん〜〜〜〜〜っ、……完璧だわ」
 ほう、と鏡の中で微笑むのは成人男性推定年齢20代後半。
 伝説の運び屋ムンベイをたぶらかした眉目秀麗ハンサムな顔立ちだが、両目がその全てを裏切っている。
 星(☆)が浮いているのだ。
 よく見ればハートマーク(?)も張り付いている。
 およそ男の目ではない。
 恋するヲトメの瞳だ。
「さあスティンガー、行くわよ。シャワーも浴びたし、お肌つるつる、お化粧もした。地味な病人服なんかとっぱらってお気にの服も取り戻した。あとはアノ人をオトスだけv アノ人ストレートだからそれが一番難しいけど、アタックしないことには進展しないわ。それに段階ってのも重要よ。今夜はまずアタシの舌テクでヤっちまうのよv」
 若干しゃがれた声で鏡に話し掛けるその姿はとても微妙である。
 同室の患者2人は既に抵抗を諦め、スティンガーのベッドに枕をつめて毛布を被せ、即席ダミー人形を作ってやっている。
 コンパクトを閉じ、スティンガーは拳を握って高らかに宣言した。


「今夜は朝帰りよ!」


 5分後。
 病室に残された2人は心の底からため息を吐いた。
 深い。
 腹筋を使った2人のため息はとてもよく響く。
 スティンガーの太めな仕事仲間A(以下A)は呟いた。
「どうしてこうなったんだろう」
 スティンガーの背の高い仕事仲間B(以下B)は答えた。
「あいつと組んだからだろ」
 AとBは顔を見合わせて、「「はははははは」」とひとしきり笑い、またため息を吐く。
 AとBとスティンガーは犯罪者である。
 皇帝誘拐に失敗し、(一応)おとなしく服役していたのだが、叩きこまれた刑務所がデススティンガーに襲撃されたのだ。生き延びるためにも、と刑務所のゾイドに搭乗したがあえなく大破。その後収容された病院でデススティンガーとデスザウラーがあのバン・フライハイトに倒されたことを知り、現在は怪我の療養中、完治次第また刑務所に戻ることになっている。
 いるのだが。
「『牢屋の鍵をあけてくれたのよv』だったか?」
「『アノ人だけが立ち止まってくれたしv』とかな」
「病院ですれちがった時に、『《デススティンガーに立ち向かって生きているとはよっぽど腕のいいゾイド乗りなんだな、機会があったら私に教えてくれないか?》って言われたのよv』とかしゃべってたな」
「『いろいろ教えてアゲナくっちゃv』って、教えてほしいっつーのはゾイドの操縦だろうが」
「一目ぼれ?」
「らしい」
「バイか?」
「いや、ゲイだな。女を憎んでるタイプだ」
「俺たちも?」
「大丈夫だ。好みのタイプが違う」
「……ああ、ああいうひょろい奴がいいのか」
「『ストイックそうで知的な眼鏡もステキv』だとよ」
 AはBを見た。Bは背は高いが、目つきが悪かった。
 BはAを見た。Aは短めで背も低く、ちょっぴりおデブだった。
「やな奴と組んじゃったなぁ」
「ほっとけ」
 以前にも交わした会話を繰り返し、目をつけられた『ハインツっていうのよぉv』の青年の安眠を祈って、AとBは寝た。



 ―――バシコヤード・アカデミー。
GF隊員トーマ・R・シュバルツの母校であり、帝国軍採用兵器の70%が開発されている、ガイロス帝国の名門校である。
 ハインツ・ベルドはここのウエポン・コーディネーターであった。
 『あった』と過去形なのは、彼がすでにその職を解かれているためである。個々のゾイドの搭載兵器を取捨選択する傍ら、ゾイドの自動戦闘プログラムを開発していた彼であったが、それはゾイド乗りの兵士たちからは
『自動戦闘? はん、そんなもの飯の足しにもなりゃしねえな』
と、けなされる日々でもあった。
 いつしか鬱屈昂じ、助手2名と共に熟練ゾイド乗りの闇打ちに走ること、十数日。
 彼らが作成した巨大ゾイドの立体映像と、自動操縦用プログラム【トリニティ・コルド】で制御されたセイバータイガーは見事にゾイド乗りたちをのめしていったが、最後に人工知能ビークの情報収集とGF隊員バン・フライハイトのゾイド操縦技術の高さに敗れ去ったのが事の次第だ。
 フライハイト隊員との再戦を約して服役中のハインツだが、その刑務所がデススティンガーに襲撃されたのだ。避難する途中で片足を骨折した彼は刑務所付属の病室(小金を握らせて個室に入れてもらった)に収容されていた。
 そんな療養中の、ある日の深夜のことである。



 ハインツ・ベルド20代後半(推定)。
 彼は今、人生最大の混乱の渦中にいた。
 夕食後は読書をし、消灯時間後はうつらうつらと寝ていたら、何やらゆり起こされた。
 一体何だと眠い目を開ければ、いきなり人間の顔面どアップ。
 しかも下からの懐中電灯付き男の顔面である。
「ハァイ、ハ・イ・ン・ツv」
 暗闇の中でボウッ、と浮き上がった顔面が投げキッスを飛ばした。
「!!」
 心臓がすくみあがり、ハインツは原初の恐怖で絶叫し――
「アーラ静かにね」
――かけて口を手で塞がれた。
 モガモガモガモガ
 もがくこと数分。
 口と一緒に鼻まで抑えられて呼吸困難になったのと、動いて吊っていた足が捻れて痛くなったのと、顔面男性に乗っかられたのとで、ようやくハインツは抵抗を止めた。
 鼻先をかすめるほどに近づけているのは、デススティンガーの襲撃の時に彼が牢から出してやった囚人だ。
「眼鏡を取った素顔もステキv 安眠中に失礼するわね。でも、どーしてもアタシの燃え盛る恋の炎と情熱のリビドーがおさまらなかったのよイトシのハインツv」
 理解不能な言葉を聞いたような気がした。
 しかし脳に回る酸素が少ないために確認できない。
 ハインツは口を塞いでいる青年の腕に手をかけ、渾身の力で除けようと、もがいた。
 モガモガモガ
 無理だった。
「まぁ積極的ね。嬉しいわv」
 著しい誤解が生じた。
 ハインツは『苦しい』『手をどけろ』という意思を必死のパントマイムで伝える。
 演技一分、ようやくハインツの口が解放される。
「静かにしてね? 邪魔者が来ちゃうからv」
 ハインツは呼吸を整えながら自分の腹の上に乗っている青年に尋ねる。
「き、君、は、…いったい(ゲホッ)だ、誰だ?
 どうし、て、私、の部屋、にいる、んだ?(ゲホゲホっ)」
「いや〜ん、自己紹介がまだだったわ。アタシとしたことが、ちょっと焦っちゃったのね」
 青年は頬を両手で覆ってふるふると振り、今度はハインツの耳元にその顔を近づける。
「アタシの名前、スティンガーよ。アナタに牢屋から出してもらったのv
 昨日もすれ違ったけど、覚えてな〜い?」
 囁かれた。
 耳の奥に息も吹き込まれた。
(まさかっ!)

 ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッッ

 ハインツの全身に、一気に鳥肌が立った。
 このスティンガーという若干年下の青年には見覚えがある。病院内でも少し言葉を交わした。言葉遣いはドン引きだが、自分に対する態度自体は悪くなかった。ゾイドの腕も高く、その点では面識ができれば、とは思っていたが。
(こういう面識ならいらないぞっ! なんとか身を守ってきたというのにっ)
 頭脳系の自分は肉体系の服役者には勝てない。
 入所前に、刑務所では貞操がヤバイ、との前情報を得ていた彼は、出所後の再就職と再戦をにらみ、五体満足きれいな体(性病なし)でいるため努力をしてきたのである。貯金を取り崩して所長や看守に付け届をばらまき、房は1人用、シャワー時間もずらしてもらうなどして、何とかこれまでその臀部を守ってきたのだ。
 ああそれなのに、それなのに。
(鍵を頑丈なものにしてもらえば良かったかっ!)
 激しく後悔しても、もう遅い。
「ちょ、ちょっと待て。私にそちらの趣味はっ――」
 耳を甘噛みされた。
 鳥肌が増殖した。
 スティンガーはハインツの腹の上から後退して毛布をはぎ病人服(下)を脱がせにかかる。ハインツはなんとか逃げようとするが、いかんせん体勢が悪く起きあがろうとしても押さえこまれる。
「だ〜いじょうぶ、今夜は極楽にイかせてあげるわv」
 どうせならイくなら娑婆(シャバ)に行きたい、とハインツは切実に思った。 



 [スティンガーはハインツの陰茎の鈴口を舌で数度つつくと、軽く先端を銜える。]
「ちょっと待てっ、さっきから言っているように私はゲイじゃない!  ないんだからっ触るなっ」
 [亀頭を舌で1回2回と舐めまわし、くびれた部分を前歯でえぐるように噛む。]
「―――――ッッッ!」
 [スティンガーはハインツの陰茎を一旦口腔から出し、右手の人差し指の爪で竿をなぞる。亀頭から根元へ。根元と腹の接着部の肉を強く押し弱く押す。]
「つっ」
「ん〜〜〜、ステキなペニスねv 大きさも太さもついでに長さもバッチリv」
 [スティンガーは熱帯びた目でハインツの陰茎を眺め、舌なめずりする。]
 [ハインツが上半身を起こす。]
「だから人の話を――」
「あら、大声出すと看護婦が来ちゃうわよ?」
 [陰茎の根元に近い竿を右手の親指の腹でゆっくりと上下にこするスティンガー。ハインツの感覚神経はその刺激をむず痒く伝達し、腰から下腹、背骨をしびれさせる。]
(まずい、このままでは、最後までヤラれるっ)
 [ハインツは震える両手でスティンガーの頭を掴み、引き剥がす。スティンガーは抵抗もせず頭を上げ、ハインツと視線を合わせる。情欲に盛った目は潤み、その口唇は赤く濡れて、スティンガーの唾液がハインツの陰茎へと糸を引きそしてしたたる。]
「頼む、…は、ちょ、頼む、止めてくれっ、私、はこんなこと、されたく、ないんだっ」
 [スティンガーの目が細まる。虹彩が収縮して瞳を動かし、ハインツをねめあげる。蛇のように小さく舌を出しいれする。]
「嫌なのかしら? だって」
 [スティンガーは右手を陰茎に沿え、左腕を伸ばす。左の人差し指はハインツの唇を撫ぜる。上唇、そして口の端、そして隙間から指をさし入れる。指はハインツの前歯のエナメルを引っ掻き、その根元の歯茎に爪を這わせる。中指は上顎の内側を圧迫し、ハインツの唾液を絡める。]
「勃ってるわよ」
 [スティンガーに根元をきつく握りしめられ、ハインツは反射的に指を噛む。]
「あン、いった〜い」
 [引き抜いた指には鮮血がにじみ滴る。一筋はスティンガーの手のひらの運命線の溝を通る。人差し指をシーツにこすり付ければ白い綿地が赤く窪む。]
「それにね、アタシは」
 [鎌首を擡げた蛇の如くスティンガーは身を乗りだし、ハインツの下腹を舐めあげる。]
「狙った獲物は、逃さないのよv」
「いやだから獲物って人のことを何だとってああああ」
 [スティンガーはハインツの陰茎を再び銜える。喉の奥へ根元まで深く飲み込み、平べったい舌を竿に巻きつける。人間の口腔内の温度は約38.5〜39℃。室温が25度とすると15度も高い。舌を巻きつけられ、温点から刺激が電流となってハインツの脊髄を痺れさせる。]
「つ、あつ、い、あ、あうっ」
 [スティンガーは舌をこすりつけて喉を上下に動かす。刺激は断続的に、ハインツの体を痙攣させる。過敏なくびれが隙間無く熱い舌を押しつけられる感覚は、ハインツの思考を止める。両手はスティンガーの頭からベッドに移り、堅くシーツを握りしめて皺を作る。スティンガーは口腔をきつく窄めて啜りあげ、ざらついた舌でハインツの陰茎の皮膚を擦る。そして根元を離す。]
「……っっ、う、あ、あ、ああああっ」
 [ハインツは背を屈め、硬直した後、射精した。]
「オイシイわ…v」
(……………か、神よ)
 [白濁した液をスティンガーは鼻筋に擦り付け、目の焦点が飛んだハインツの顎を持ち上げる。ハインツの目じりにたまった生理的な涙を舐め取り、喉を大きく鳴らして嚥下した。]




 20分後。
 正気を取り戻したハインツがガバッ、と起きると骨折した足に痛みが走った。
「あんまり無理に動かないほうがいいわよv」
 痛みに頭を抱えていたら、声をかけられた。心底疲れて顔を向ければ、案の定居るのはスティンガーだ。ベッドに腰かけ、長い足を組み、身を乗りだしてくる。
「君、」
「スティンガーよ」
「…………スティンガー、さん。」
「『スティンガー』って呼び捨てじゃないと、イ・ヤv」
 殺意が芽生える一瞬である。
「…ス、スティンガー」
「なぁに?」
「さっきはこんなことになってしまったが、私には本当に、何だ、その、男性に抱かれる趣味は無いんだ。もう金輪際、来ないでくれ」
 報復が怖い、と思いつつもきっぱりと言いきったハインツに、しかしスティンガーはゆっくりと口の端を引き上げる。
「知ってるわ」
「え?」
「アナタがストレートだってこと。だから今夜はこれだけ。いきなりはちょっと無理だから、舐めるだけにしといたのよ」
(……さっきのだって、結構無理なことだったが)
「それなら何故」
「言ったでしょう?」
 スティンガーは言葉を遮り、
「『恋の炎と情熱のリビドーがおさまらなかったのよ』」
 ハインツの首に両腕を絡めてもたれかかってくる。

 ズゾゾゾゾゾゾゾゾッ

 鳥肌が立つが、先ほどよりも立つ量が少ないことにハインツは焦った。
(…な、なじんでる?)
「ねぇ?」
 覗き込んでくるスティンガーの目。
「アナタの名前がハインツ・ベルドで、帝国でウエポン・コーディネーターをしてて、そこでお馬鹿な兵士を半殺しにして、でもあの小僧……バン・フライハイトにやられちゃったことまで、アタシ知ってるわ」
「な、どうしてそこまで」
「好きだから」
 ハインツの頬を優しく撫でる。
「好きだからよ。
 だから調べたの。
 アナタに一目惚れなの」
 かなり、真剣な声と目と告白だった。
 犯罪者同士。
 真夜中の病院。
 二人っきり。
 ベッドの上。
 加えて密着。
 人生においても、そう何度はなさそうなシチュエーションだ。
(……って、ちょっと待て)
 半分ほだされかけたハインツは、しかし一呼吸置いて気が付いた。
「だからと言って、レイプが許されるかっ」
「ああンやっぱりまだオちないわねっきいいっ」
「何だそのオちるってっ結局――」

 カツーン カツーン カッカ
 カツーン カツーン カッカ カツーン
 

 巡回の足音が響く。病室の窓に乱反射するライト。
 二人はお互いの口を手で塞ぎ、息を殺して警備の巡回が通りすぎるのを待つ。
 個室に二人。
 ベッドはめちゃくちゃ。
 情事後、特有の、アノにおい。
 部屋に入られたら、即バレる。
 静止画像のように身動き一つせずに、数十秒。
 足音が消え、今度は小声でしゃべりだす。
「――結局体が目当てなんだろうが」
「体からはじまる恋があってもいいじゃないの」
「それはそっちの論理だっ」
「それならいやがるのだってアナタの勝手だわ」
「好きだなんだというが、私が嫌がっているんだぞ?
 女役はごめんだっ! 私に肛虐趣味は――」

 ポムっ

 スティンガーが可憐に両手を打ち合わせた。
「あら、言ってなかったかしら?」
 シナっと身をくねらせ――
「こんなナリだから気が付くと思ったけど。 アタシ、下よ」
「…………は?」
「だから、アナタが、アタシに、挿れるのv」
――笑顔でハインツの息子を指差した。



 一夜あけて翌日。
 さんさんと差し込む朝日の中で、ハインツは事後処理に難儀した。
 昨夜は『挿れて欲しいのv』宣言に呆然とし、口淫で2回も強制射精させられた挙句、スティンガーからの濃厚な接吻(口はすすがれていなかった)にとどめをさされたのだ。非常に後味が悪かった。
 部屋にこもった臭気とシーツや毛布の惨状は、筆舌に尽くしがたい。
 松葉杖で窓を開ければ換気はできたが、シーツと毛布は水差しの水で濡らしてしまった、と看護士(女性)に丸めて渡した。言い訳が苦しすぎて、視線がひどく痛い。
 頼み込んで鍵を追加してもらおうか、と思って止めた。
 おそらく無駄だろう。犯人は病院全体の警備をくぐりぬけ、鍵を突破してこの個室に侵入し、ハインツに気づかれぬうち枕元まで来ていたのだ。加えて自分はどうにも彼を拒みきれなかったのだ。
『じゃあこうしましょう。すぐに心まで欲しいとは言わないわ。まずアタシはアナタに夜這いをかける権利を持つ。その代わりに、出所後にアナタに戦闘のレクチャーをする』
『出所後って、私の刑期はあと一年あるぞ』
『アタシだってあと五年はあるわよ。ま、今回の件でちょっとは刑期短縮があるでしょうけど』
『実際にレクチャーをするという保障はあるのか?』
『無いわ』
『それでは取り引きになら――』
『信じてハインツっv 本気なのv』
『できるかっ、というかくっつくなっ』
『あ〜ら、それじゃあアナタ、あの小僧となんかいつまでたっても戦えないわよ。自前のゾイドも持たないアナタがどーやって訓練から何からするのよ?』
『それはアカデミーの、』
『貸してくれるかしらねぇ? 前科持ちに?』
『う』
『それに、バン・フライハイトと実際に戦った経験がある奴なんて滅多にいないわよぉ?
 しかもタ・ダv』
『う、うううううう』
『さあっ、どうするのっ?』
『いや、しかし夜這いって、するのか? 私が、その、』
『大丈夫よ、挿れる場所が違うだけなんだから!
 それに自分で言うのも何だけど、病気なし締り良しの名器よアタシ』
『……う』
 結局押し切られてしまった。
 彼が約束を本当に守るのか確信はない。
 ないのだが、【バン・フライハイトと(負けたが)戦った経歴】は魅力的だった。
 なにやら魔物と取り引きをしたようで、胃がキリキリキリキリッと痛む。
(生きて、自分の足で歩いて外に戻りたい……)
 精力吸い尽くされて干物になる自分。
 想像してみてハインツはゾッとした。
 したついでに気が付いた。
 骨折した足に白いギプスを巻いているのだが、白以外の色がついている。
 汚れかと思ってよく見れば、





See you tongiht!!





 ピンクのルージュだった。
 でかでかと書かれていた。
(今夜も来るのかっ?)
 ハインツは頭を抱え、ひたすら自分の不運を呪う。
 帝国辺境とある刑務所付属の、病院の朝だ。

 

2002.12.27 脱稿
(初出『閑話休題-吸陰茎-』より)
2009.12.27 改稿