「しかしな、バン・フライハイトの生き方は傲慢だと、つくづく俺は思う」
―――ロブ・ハーマン大統領補佐官
帝都ガイガロスの、春。
トーマ・R・シュバルツのとある女性(※後日詳細を掲載予定)の結婚式には、帝国人以外の参加者も多数いた。
新郎がガーディアン・フォース(GF)に勤務しているためだ。
「やはり新妻というのはええのう。
甘酸っぱい初々しさっちゅうモンがあるわい」
そのうちの一人、GFでゾイド研究部門の主任を務めるDr・Dは花嫁と隣に立つ助手を交互に眺めては「ひっひっひ」と笑っている。
「私舐めると甘酸っぱいの?」
七ヶ月の母体ながら、はるばる帝都まで来た助手兼新妻のフィーネ=エレシーヌ・リネは小首を傾げる。
そして「どうなの?」と、Dとは反対側にいる夫に尋ねた。
「……場所によってはそーかもな」
「え? 本当ですか? バン?」
「実はなルドルフでででででっ」
「バ〜〜〜ン〜〜〜?
妙なことくちばしってんじゃないわよぉぉぉ?」
「ででででで痛ぇよムンベイ!」
十九歳で『できちゃった婚』という一歩間違えば大スキャンダラスショッキング行為をかましたバン・フライハイトGF隊員は、ムンベイに耳を捻り挙げられた。
「Dじいさんっ、あんたもよっ!」
「ひょっひょーーひょひょひょ」
そんな騒ぎを無視しアーバインはフィーネをぽんぽんと撫でようとして、……止めた。
妊婦は怖くて、うかつにさわれない。
「フィーネ、そんな腹で来て大丈夫なのか?」
「あらアーバイン。だって私が会いに行かなきゃ、あなたに会えないでしょ?
やっぱり来てくれなかったし」
「…………悪ぃな」
「ううん、大丈夫よ。
この子たち、すごく元気に育っているから」
『るヴぁ!』
ジークもフィーネの意見に賛同した。
アーバインは聞き返した。
「…たち?」
「双子ですって」
非公式に参加している皇帝陛下のお付きで、こちらも非公式参加の宰相もバンをたしなめる。
「……フライハイト大尉。
陛下と仲が良いのは結構ですが、あまり品の良くない言葉を使用されるのは頂けません」
「えー? ホマレフ、品の良くない言葉って何ですか?
知りたいです!」
「陛下っ……この老体になんと無体なお言葉を……っ」
「皇帝陛下、では友好の証に共和国側からの情報提供と致しましょう」
「ありがとうハーマン大佐!
あ、今は大統領補佐官でしたね。就任おめでとう」
「いえいえ、本国に戻ったらまた軍人に逆戻りですよ。
バンが言った内容の解釈としては」
チャキン。
ハーマンの首筋に、ガイロス帝国第一種正装(白)で佩刀するサーベルの鞘が当たった。
「ロブ・ハーマン。
共にデススティンガー戦役を戦いぬいた戦友の誼だ。
ひとおもいに殺(ヤ)ってやろうか?」
先日異例の昇進で軍務大臣に就任したカール・R・シュバルツ大佐(数日後には将軍の叙任を受ける)の目はかなりキていた。
愛する弟の結婚式という良き日を、下ネタで汚されたくないらしい。
ついでに、式の前にハーマンがアーバインと長々と話しこんでいたのも、不機嫌の原因のようだ。
「……シュバルツ大佐。
帝国の大臣が共和国の役人に武器をつき付けると、友好関係にひびが入るぞ?」
「安心しろ。
今日の式は、報道関係者を全てシャットアウトしている身内の式。
しかも共和国からの正式な客人はお前だけ。
ここでお前の口を封じれば全ては闇の中だ…」
そこでシュバルツは美貌に笑みを浮かべ、サーベルを腰に戻した。
「タチの悪い冗談は、お互いこれくらいで止めておこう。
ようこそ、ロブ・ハーマン。弟に代わって礼を言う」
ハーマンも野太く笑い、手を差し出す。
「一緒に飲みに行く約束がありましたからね。
招待状が来た時には、並み居る希望者を蹴散らしましたよ」
がっしりと握手を交わし、そこにハブにされたルドルフの文句が落ちた。
「だから、フィーネさんを舐めるとどーして甘酸っぱいんですか?」
―――御年十七歳、何かと気になるお年頃、の皇帝陛下は好奇心がとても強かった、と侍従は記している。