看護士は女に寄り添う。
女の介護担当となったのは、偶然と思惑の半々だった。所属する病院に女の付き添いの急募が偶然入り、耳にしたときには自然と志願していた。
「忘れたと思っていたのにね」
看護士と女しかいない病室で、独り呟く。あつらえたように病室は防音で、女に意識がなければ聞く者は誰もいない。
女の傷口は夜になると腫れて発熱し、女の体を苛んでいる。熱により体力を消耗し、容態は一進一退を繰り返す。昼は立ち上がろうとする女も、夜になれば失神の如く眠り込む。
今夜のように。
口を僅かに開き、浅く速い呼吸をする。唇は乾き裂け、額には汗が薄く滲み、残った左腕の指先は血流のためか、赤く張り詰めている。
女の汗をふき取る。
汗を吸った綿を捨ててから、看護士は汗をぬぐってやったことにはじめて気が付く。
「職業病かしら。だめね、放っておけないわ」
女がどんな体をしているのか、看護士は付き添いになってから知った。
怪我により筋力が衰えたのは当然だろうが、そもそも痩せている。女性としての丸みが少なく、関節ばかりが目立つ。
女の体を洗うたび、看護士は数年前に救援に行った辺境の農村を思い出す。
十数年に一度の割合で旱魃と飢饉にみまわれるその地域の住民は、老若男女問わず多くが女と似た体つきをしていた。
「こんな体でよく戦争をしたものね。それとも粗食に慣れていたからできたの?」
女の答えはなく、咽喉が呼気により細く鳴るだけ。
女が戦巧者だとは看護士も知っている。
女の師団に配属された息子からの手紙には、そのことがよく書かれていた。
何年の、何の月の、何日からの。
どこの国の、どこの地域の、どこの戦場でのどんな戦いの指揮だったのか。
看護士は、よく、知っている。
「読み過ぎて、擦り切れてしまったわ」
もう来ないからかしらね、と看護士は呟き、それでも女に寄り添う。
脱稿 2004.12.15