或ル国ノ話

26.effusion



告白が続く。

男の人生でこれほどに心情を吐露したことはない。 男は思考の過程を示すことを嫌ったし、部下に禁止することはなかったが内心を推測されるのも嫌った。 こうして常々感じてきたこと、思うこと、これからの計画をただ思うがままに口に出す経験に、感動すら湧く。

幼少から他人を従えることに慣れていた男は、自分にその才があることにも早くから気づいていた。物事を立案・実行していくことは何より面白く、周囲を巻き込んで事態を主導するのは何より愉快だった。

上の世代は良かれ悪かれ男を評価する。
下の世代はただ男を慕う。
同世代は最初こそ挑むものの、時を経て男に従う。



男は(かつ)えていた。



男に敵はいても、好敵手はいなかった。

男に同僚はいても、相方はいなかった。



「……まぁ、これで長年の懸案だった土地問題は解決できる。これが滞りなく進めば、2,3世代は十分に保てるだろう。その後のことは、その時の奴らに任せればすむ話だ」

「それで」

寝台から身を起こし、しかし俯いたまま、女が口を挟む。
都にその身を移されて以来、男が耳にする初めての言葉だ。

「あなたは私に何をさせたいのですか。そこまで話をしていったい私にな」

男は女の肩を掴み、顔を向かせる。

「何も。別に何もない。実務の専門は揃えているし、顧問も集めた」

お前は黙って聞けばいい、と男は告白を続けた。



脱稿 2004.10.09
改稿 2004.10.11
改稿 2004.10.28