或ル国ノ話

22.search after the lines



女は床石の継ぎ目を辿る。
両隣の石と石との境界線、その細長い石幅の上を、女はゆっくりと辿る。

都への移送は女の意識の無い間に行われた。
一級呪医ら6人による煩雑な数十の手間をかけ、同時に細心の注意を払われた術式により、女は30日間仮死状態にされた。
同意はもとより尋ねられず、目を覚ませば既に都の一角、官庁街にほど近い屋敷の一室に女は居る。

(相変わらず、用心深い)

右足。

よろめきながら、左足。

倒れぬよう、一歩ずつ。

動かさなければ、体はなまる。
体が鈍れば、役には立たない。
役に立たなければ、女の意義は無い。


額から、汗が流れる。

拭うために右腕を回し――しかし無い反動で姿勢を崩す。

床に座り込み、女は息を整える。

両足と背筋から石の冷温が伝染し、全身に身震いと悪寒が何度も起こる。

左腕で、改めて汗を拭う。 




何のために 誰のために 役に立つのかを、女は考えようとしない。




片手をついて立ち上がり、部屋の扉から窓まで、女は何度も床石の継ぎ目を辿った。



脱稿 2004.10.30