女は床石の継ぎ目を辿る。
両隣の石と石との境界線、その細長い石幅の上を、女はゆっくりと辿る。
都への移送は女の意識の無い間に行われた。
一級呪医ら6人による煩雑な数十の手間をかけ、同時に細心の注意を払われた術式により、女は30日間仮死状態にされた。
同意はもとより尋ねられず、目を覚ませば既に都の一角、官庁街にほど近い屋敷の一室に女は居る。
(相変わらず、用心深い)
右足。
よろめきながら、左足。
倒れぬよう、一歩ずつ。
動かさなければ、体は
体が鈍れば、役には立たない。
役に立たなければ、女の意義は無い。
額から、汗が流れる。
拭うために右腕を回し――しかし無い反動で姿勢を崩す。
床に座り込み、女は息を整える。
両足と背筋から石の冷温が伝染し、全身に身震いと悪寒が何度も起こる。
左腕で、改めて汗を拭う。
何のために 誰のために 役に立つのかを、女は考えようとしない。
片手をついて立ち上がり、部屋の扉から窓まで、女は何度も床石の継ぎ目を辿った。
脱稿 2004.10.30