或ル国ノ話

20.pull the sheets over herself



女は敷布にくるまり、ぼんやりとした顔で陶器製の湯桶から立ち上る湯気を眺めている。
看護士は湯桶と丸椅子の下に防水用の毛布を敷き、手を入れて温度を測る。

「どうぞ」

うなずいて女は敷布を左手で胸元にたぐり寄せ、寝台から立ち上がる。

「だいじょうぶですか?」

足元がふらつき、女は再び腰掛けてしまう。

「ええ。立てます」

看護士は手を貸し、女を椅子に座らせる。
敷布を受けとり、看護士は眉をひそめる。

上半身を脱いだ女の中背の体は、いまやひどく痩せてしまっている。
肩甲骨が尖り目立つ。
脇腹にはあばら骨が浮く。
うなじから切断した右腕の周辺においては、血流に乗って"歪み"が心臓の一部と肺にまで達したこと示す青黒い痣が網状に残る。

小さく息をつき、看護士は絞った浴布を体を冷やさせぬよう女の肩にかける。

「少し熱めにしてあります。加減はいかがですか?」

「いい具合です」

洗髪し、耳の裏の垢を取り、腋の下の汗をふいていく。

何度か布地を交換して女の胸から腹を拭った時、看護士は気づいた。




女の胸部や下腹部に、白く細い線が数本走っていることに。




表情を変えず、作業の手も止めず、しかし看護士はもう一度それらの線を確認する。

(……まさか)

女はやや俯いて座っており、気づかれた様子はない。
動揺を隠し、看護士は女の洗浄を終える。

「ほかに痒いところはありますか?」

「いいえ。大丈夫です。ありがとうございました」

手早く後片付けをする看護士を、女は敷布にくるまり、ぼんやりとした顔で見ていた。


脱稿 2005.01.30