女は敷布にくるまり、ぼんやりとした顔で陶器製の湯桶から立ち上る湯気を眺めている。
看護士は湯桶と丸椅子の下に防水用の毛布を敷き、手を入れて温度を測る。
「どうぞ」
うなずいて女は敷布を左手で胸元にたぐり寄せ、寝台から立ち上がる。
「だいじょうぶですか?」
足元がふらつき、女は再び腰掛けてしまう。
「ええ。立てます」
看護士は手を貸し、女を椅子に座らせる。
敷布を受けとり、看護士は眉をひそめる。
上半身を脱いだ女の中背の体は、いまやひどく痩せてしまっている。
肩甲骨が尖り目立つ。
脇腹にはあばら骨が浮く。
うなじから切断した右腕の周辺においては、血流に乗って"歪み"が心臓の一部と肺にまで達したこと示す青黒い痣が網状に残る。
小さく息をつき、看護士は絞った浴布を体を冷やさせぬよう女の肩にかける。
「少し熱めにしてあります。加減はいかがですか?」
「いい具合です」
洗髪し、耳の裏の垢を取り、腋の下の汗をふいていく。
何度か布地を交換して女の胸から腹を拭った時、看護士は気づいた。
女の胸部や下腹部に、白く細い線が数本走っていることに。
表情を変えず、作業の手も止めず、しかし看護士はもう一度それらの線を確認する。
(……まさか)
女はやや俯いて座っており、気づかれた様子はない。
動揺を隠し、看護士は女の洗浄を終える。
「ほかに痒いところはありますか?」
「いいえ。大丈夫です。ありがとうございました」
手早く後片付けをする看護士を、女は敷布にくるまり、ぼんやりとした顔で見ていた。
脱稿 2005.01.30