老医師は看護士に暴露する。
「家族がいるか、じゃと?
……そもそも、面会に来るような血縁がおらん。
あの子は孤児じゃ。成人してからは、この都ではずっと独りで暮らしとったようだな。
異動先の辺境地区ではどうだったか知らんがの。
……急にどうした?」
「いらっしゃるのであれば、面会を許可すべきだと思ったからです。
朝から晩まで一日中、外を眺めていたり通りを眺めていたり。
かといって目を離せばすぐに歩こうとされますし、結局無理をして熱を出されます。
横になっても天井を見てばかりで、ほとんど口を開かれることもありません。
このような状態では、回復にも差し障りがでます」
「無口なのは昔からでの。
全くしゃべらんのも困るが、あのたわけ者が顔を出しとるじゃろう?
あやつがまくし立てるくらいで、あの子には充分じゃ」
「……子を、お持ちではないのですか」
「結婚すらしとらんからの。いるのであればとっくに来とるだろうよ。
職務中の負傷での休職扱いになっておる。家族の面会であれば、はじめから禁止されておらん」
「……あの方は、本当にお独りですか?」
「浮いた噂一つなかったの」
「…………妊娠を、されたことがあるようです」
「……………………なんじゃと?」
「下腹部から大腿にかけて、妊娠線がありました。
出産まではわかりませんが、妊娠は確実です」
看護士は老医師に暴露した。
脱稿 2005.02.06
改稿 2009.09.21