或ル国ノ話

15.put arrows through her



夢の中で、彼女は女を弓で撃ち抜く。

女の小柄な体は軽々と飛び、地面へ打ちつけられる。
彼女は追いかけ、女の背や腹を何度も蹴る。
たやすくその体は仰向けになり、痛みに歪む女の顔があらわになる。
苦痛に唇を噛む女の表情に、彼女は興奮を禁じえない。
耐え切れないのか、次第に女から悲鳴と涙がこぼれる。




彼女は笑う。




これが夢だと知りながら。

実際に女の泣き顔も涙も見たことはないと自覚しながら。


女を足蹴にし。

弓の台尻で殴り。




彼女は腹の底から笑う。




しばらくすると、女は彼女の片足を掴み、唐突に尋ねるのだ。

「なぜ」
と。



彼女の寝覚めは今朝も良い。朝に強いこともあるが、夢見が良いと更に高揚する。

「今日は面会日ね」

普段は滅入る恒例の日も、これほど気分が良ければ苛立たずにすむ。
そんな思いに鼻歌を歌いながら身支度を整えさせ、食卓につく。
召使が手渡す新聞に目を通せば、女の記事が載っていたので切りとっておくように命じる。

屋敷から上司である男のもとに向かう道すがら、彼女は夢の中での女の問いを呟く。

「『なぜ』って言われてもねぇ……。
 別に、あの人に恨みがあるわけでないし、あ、でも暗いからかしら。あんまりお近づきになりたくない人だけど、憎々しいっ、ってものでもないし」
彼女は笑い、男の執務室に向かう。




―――そうして男の付き添いを終えた今夜もまた。

夢の中で、彼女は女を打ち抜いた。





脱稿 2004.12.4