女は男を庇う。
女には周りの全てがゆっくりと見えた。
激昂した議員の刃の震えも。
倒れていく椅子も。
立ち上がりかける自分の部下も。
剣を抜きかける男の部下も。
目を細める男も。
(わらいますか?)
前のめりに右足で地を蹴る。
(あなたは力を持たない人をわらいますか?)
左足を大きく踏み出し、距離を詰める。
(あなたのように力も能力も持たなくとも、国を案ずる人はいるのです)
女の耳に音は届かない。
無音の中、思考は高速で、動作は緩慢に流れる。
(いけませんか? 家族や友を案ずるよう、子を案ずるように、国を思うのは)
女は右腕をいっぱいに伸ばす。議員と男の間に。
(能力がなくては、いけませんか?)
議員の刃が刺さり、男の部下の剣が切り裂く。
女の右腕を。
周囲が一気に音を取り戻す。
「貴様っ、何故邪魔をする!」
「閣下! お離れ下さい!」
女は全てを庇った。
脱稿 2004.09.22