或ル国ノ話

09.screen everything to her

 

女は男を庇う。

女には周りの全てがゆっくりと見えた。

激昂した議員の刃の震えも。

倒れていく椅子も。

立ち上がりかける自分の部下も。

剣を抜きかける男の部下も。

目を細める男も。

(わらいますか?)

前のめりに右足で地を蹴る。

(あなたは力を持たない人をわらいますか?)

左足を大きく踏み出し、距離を詰める。

(あなたのように力も能力も持たなくとも、国を案ずる人はいるのです)

女の耳に音は届かない。

無音の中、思考は高速で、動作は緩慢に流れる。

(いけませんか? 家族や友を案ずるよう、子を案ずるように、国を思うのは)

女は右腕をいっぱいに伸ばす。議員と男の間に。

(能力がなくては、いけませんか?)

議員の刃が刺さり、男の部下の剣が切り裂く。





女の右腕を。





周囲が一気に音を取り戻す。
「貴様っ、何故邪魔をする!」
「閣下! お離れ下さい!」





女は全てを庇った。



脱稿 2004.09.22