或ル国ノ話

07.touch her cheek



男は女の頬に触れる。

「馬鹿なことをする。お前の他に、軍を率いて俺と戦う奴はいない。あきらめたのか?」

膨張した女の右腕からは刻一刻と鮮血が溢れ、地に染み込む。女の部下は懸命に止血し、議員を縛り上げ、軍医を呼びに駆け、男の部下は剣を抜き、女の脇に座り込んだ男の周囲を守る。

「いい、え。……ですが」

喋らないで下さい、と女の部下がとどめるが、女は視線で部下の反論を封じる。

「ここいるのは、みな、共和国民です。今は、正式な、会談の、場です。……力ではなく、…………あなたを論破して、決める、時です。……武力は、この、後、です」

女の息が浅くなる。断続的な破裂音が響き、右腕から血液と肉の破片が、男にも、部下にも、飛び散る。
抑えられていた”歪み”の反動か、女の右腕では膨張と四散による破壊が始まる。


女は男を見上げる。


「ここで、あなたに、剣を、むければ……こちらが、大義を、失います。……なくしては、戦っても、意味、はなく」

女は深く息を吸う。





「私が勝った時の釈明に困る」





女の部下は目を瞬かせ、男の部下は女を凝視する。

「負ける戦いはしないか」

男は呟く。

女は早い呼吸を繰り返し、両目を閉じる。かすかに顎を引き――全身が弛緩する。女の部下は叫び、男の部下を押しのけて軍医を連れてくる。

「馬鹿な、奴だ。お前は」

男は女の頬に触れた。




脱稿 2004.09.22
改稿 2005.01.11
2005.02.07