『つがい』候補のどこが好きなのかと問われると、オルズは「全部」と答える。
たいていの質問者は、「はいはいご馳走様」といった様子で質問を終える。
世話役の神官は詳細を確認することが仕事のため、「具体的にはどこだ?」とうんざりした気分で突っ込まなければならない。
「顔、テカ表情。なんツーカ、泣キ顔ダッタり体的にも心的にもいろいろ耐えテる顔ダッタり、ギりギり限界デ我慢デキテるッ、でもホんトハもう駄目ッ、テヤツ。素の顔もいいんダワー、いツもハすゲー堅物デ、あそコも固いんダケドな。あトハ――」
さらにうんざりな神官は結局オルズの発言を途中でさえぎり、
「あーわかったわかった、要は全部だな」
「若様! それじゃ報告書になりません!」
「適当に書いておけ」
「無理ですってー!」
「お前も今の発言を聞いていただろうが」
たいがいは秘書の家内奴隷に丸投げする。
「入り用なものはあるか?」
「カねガホしイ」
額を言うと、「ずいぶん多いな」と用途を問われる。
「コの間さー、アバにヒカりもん、買ッテヤろうト思ッタんダ。ホら、アバッテキらキらしテるし、金ヤら銀ヤらデ飾ッタらもットキらキらしそうダろ?
しタらさー、なんカすッゲー怒りダしテな、『私は女ではない!』トカ言ッテもー、目なんカキュぅットツりあゲチャッテ、えろいッタらなクテさー」
「………………で、何を買うつもりだ?」
「本」
「本?」
「ヒカりもんヨり、字のホうガいいんダト。飾りもんホドじャねぇケドさ、本ッテ高いんダなー」
「で、お前はあの『つがい』候補の好きな物を用意してやりたい、というわけか」
「ああ」
「お前好みの装飾品ではなく?」
「まー、しョうガなクね?
俺も考えテるワケヨ。何ダッケ、隊長に言ワれタんダ、アバの嫌ガるコトハすんなッテ。嫌ガられないヨうにすんにハ、好キなもんヲヤるんガ一番ダろ?」
「…………ふむ、そうだな、俺もそうする。
わかった、そういうことなら話は簡単だ。なに、わざわざ高い金を払う必要はない、俺の書庫の本を貸してやろう。最新作も揃えているから、読みごたえがあるぞ。外への持ち出しは禁じるが、屋敷内はどこで読んでも構わん。
ただし、条件がある。
お前の『つがい』候補に、俺の弟妹たちの家庭教師をさせろ」
「家庭教師?」
「お前の『つがい』候補がいたアイラテロブ周辺は、この地域の文化の中心地だ。話し言葉に書き言葉、詩歌音曲に立ち居振る舞い、うちの国では全てアイラテロブがお手本でな。
『良い教育』といえばアイラテロブ風、とくれば、家長の俺としては良い教育をチビたちに受けさせてやりたいではないか」
「ヘー」
「そういうわけだ。よろしく頼むぞ」
「うーーん、アバ、教師とカデキんカなー。ッテカ嫌ガんねぇカなー?」
「今のところ、奴はお前の奴隷だろう? 甘やかすな、それくらいは説得しろ。
『つがい』になろうがなるまいが、あれはアイラテロブに永く戻れん。生きたいのならば、稼ぐ技能が必要だろうよ。アイラテロブ出身の家庭教師ならば仕事は多い。
悪い話ではないのだ、そのあたり、よく言い聞かせるんだな」
「ヘーヘー」
オルズの退出後、犬耳の秘書が神殿への報告書を書き終えた。
「『……特に顔立ちを好み、特定の表情に執着している』。
なかなかいい、これで提出だ」
「承知しました。
…………若様、あのー、俺が言うのも何ですけど、ちびちゃん達、あいつに任せちゃっていいんですか? なんかあいつ、気位ってんですかね、そーいうの高そうで、ちびちゃん達にちゃんともの教えられるのかなー、って。あと逆恨みして変なこと教えるとか、ありえるんじゃないかって」
「そのようなことをするならば、奴がその程度だということだ。
別に構わん。
授業の確認はする、問題ない」
「はぁ……」
「それにお前、知っているか? アイラテロブ出身の家庭教師は高いのだ!」
「……はい?」
「雇っても高い、奴隷で買っても高い、通ってもなお高いっ!!
そんな家庭教師が、ただも同然で付けられるのだぞ!?
この機会を逃せる者がいるだろうか!
いや、無い!」
「それが本音ですか若様ーー!? そんなら若様ご自分の浪費癖を改めて下さいっ」
「はっはっは、お前の利殖の腕前に期待する」
「何それ責任重いですよ若様あぁーー!」