或ル国ノ話

つがい 5



「彼の様子はいかがですか?」
「相変わらず、といったところだ。鳥頭が絡んではいるが、一方的な関係だな。
 もうしばらくは様子見だろう」
「『つがい』になるために、どの程度の期間が必要でしょうか?」
「…………難しい質問だ。
 あんた、あの鳥頭が言う『つがいになる』ってことがどんなことか、知っているか?」
「自分がオルズから聞いたことは、『つがい』は子を為す相手であり、それは生涯に渡って替わることはない、ということです」
「『つがいでいる』のは、それでいい。
 『つがいになる』のは、また別の話だ」
「?」
「異種族婚姻ではよくある話だが、互いの体があまりにかけ離れていると、子を作ることができない。運良く子ができたとしても、その子は病弱だったり、次の代の子をはらめない体だったりする。
 だがあの鳥頭の一族は、ほぼ全種族とまぐわり、子をなし、そしてその子はまた、当たり前のように子を産む。
 何故だと思う?」
「……オルズの一族は、多くの種族の血が体に流れています。
 その多くの血が、生殖を可能にしているのでしょうか?」
「確かにそれもあるだろう、それくらいに種族が混じった一族だからな。
 しかし、一番の理由は、あいつらが準備をするからだ」
「準備?」
「姿も中身も違う相手と子をなすための準備だ。
 それはもう、根本的にやる」
「……どのようなことを?」
「お互いの、体と頭を作り替える。……あぁ、いや、奴隷の腕を切って義翼をつけるとか、そういったことじゃない。内側から変えるんだ。
 そうだな……例えば、俺は魚が好きだ。毎日食っても飽きない。しかし俺が魚を山のように食っても、魚になることはない。魚を体の中に入れてもその栄養を得るだけであって、魚の特徴を取り込むわけではないからだ。
 魚は魚、俺は俺。
 生き物ごとに、体の枠組みは決まっている。その枠組みがある限り、俺にエラや鱗が生えることはなく、安心して魚を食える。
 そしてあいつらの準備は、その体の枠組みを壊すことにある」