教えることは、苦ではなかった。
故国では、時間があれば弟たちに剣や歴史を指導していた。幼い子どもの扱いには慣れている。素直に読み書きを学び、「書けた書けた」と喜ぶさまに、つい笑みが浮かぶ。
背に、異形の鳥の視線受けなければ、さらに。
「……用が無いのならば、去れ」
「用ならあるぜ。あんタヲ眺めるッテいう大事な用ダ」
「…………この子らは勉学の最中だ。
何もせず、怠惰な振る舞いする鳥がいては、気が削がれる」
「そうカ? 結構まトもにお勉強しテるみタいダケドなぁ」
――邪魔だ、去れ。
喉までこみ上げた怒声を、アヴァーツォはなんとかこらえる。
教え始めた初日はこのやりとりが止まらず、しまいには怒鳴ってしまった。幼い生徒たちは怯えて泣き出し、神官には呆れ顔で諫められた始末。
教師をしろという異形の指示に従うことは不本意だが、神官の「こんなこともまともにできないのか?」という視線には我慢がならない。
「…………静かに、していろ」
「ヘいヘい。仰せのままに」
オルズを無視し、授業を続ける。
食事を与えられる。
ちぎった麺包(パン)を口元に差し出される。
慣れない。
ためらい、それでも小さく口を開き、口中に入れられるパンを咀嚼する。
舌先に羽毛の感触。
パンに付着したのだろう、顔をしかめる。
「ああ、悪ぃ悪ぃ、剃ッテなカッタ」
ヤダッタヨな、とオルズは小刀を持ち出し、自らの指先の羽毛を剃りだした。
こうなってしまうと食事は中断で、アヴァーツォは待つしかない。
自分で食事をすることは、相変わらず許されない。
しかし最近、アヴァーツォはオルズの態度に、微妙な変化を感じる。
無理強いすることが、減ったのだ。
(…………吐いた日からか?)
数日前、オルズの指を噛みちぎった。
オルズの唾液にまみれた獣肉が、どうしても、どうしても耐えきれず、咥内にねじ込まれた時、反射的に首を振った。
何も、考えていなかった。
ただ、ただもう、嫌だったのだ。
反射的に歯を食いしばって首を振り――そのままオルズを人差し指を関節一つ分、噛みちぎった。
そのまま数回、惰性で噛み続け、そして、それがオルズの指だと理解した瞬間、吐いた。
吐く物も無くなり、黄色い胃液を吐くまで吐いた。
オルズは狼狽えていた。痛がりもせず、アヴァーツォを抱えて、ただただ、狼狽えていた。
アヴァーツォにはそれが奇妙に滑稽に感じられて、笑ってしまった。
嘔吐しながら、笑っていた。
以来、肉は食べなくなった。
一度顔を背けると、無理に食べさせられることも無くなった。
「待タせタな」
きれいに剃られたオルズの指先。
指先にある、本来は湾曲した鋭い爪も、食事を差し出すためだけに削られている。
(……だから? だから何だというのだ。
こんな手間をかけるよりも、早く私を解放すれば良い)
考えることを止め、食事を続ける。