「下がれっ、ドゥオ!」
少年を羽交い締めにしたのはエクタール。
もがく少年を押さえ込み、その耳に告げる。
「やめないか、ドゥオ。あの子はもう、生きてはいない。今こうしてあるのは、体だけだ」
「エクタール様、離して下さい!
生きてます、ラッツは生きてるじゃないですか!
だってこうして、しゃべってるのに! ラッツ、ラーーーッツ!」
アダイが動いた。
少年の胸ぐらを掴み、エクタールの腕から持ち上げ――殴る。
「アダイ殿!?」
声をあげたエオに、アダイは何ら構わない。
「従者の分際で、何を騒いでんだ?
邪魔だ。黙れ」
切れたのか鼻孔から血を流す従者の少年は、それでももがき、また、アダイに殴られる。
「黙れ。言いたいことは後で聞く。今は黙れ」
少年の体から力が抜け、地にへたり、腰をつく。呆然とアダイを見上げたままで、セタンがそばに来たのもわからない。
「どうしたぁ? 呼ぶのぉ? 呼ばないのぉ?」
幼子が首を傾げ、笑う。
「お前が構うことではない。呼んでもらおう」
「いいよぉ」
でもねぇ、と幼子は続ける。
「ここじゃ呼べないなぁ」
「……何故だ」
「なんだか今年は森の力が強くなってねぇ、声がうまく届かないんだぁ。あの樹のすぐそばまで行かないと無理ぃ。どのみちぃ、エクタールぅ、君があの樹に行かないと駄目だしねぇ」
ため息一つ。
「仕方あるまい。アダイ、お前はここに残ってエオ殿たちを、」
「みんなだよぉ」
幼子が遮る。
「……何?」
「みんなで行こうよぉ。嫌な奴ぅ残してなんか行けないなぁ」
指し示したのは、エオ。
「術師だよねぇ、そいつぅ。嫌なことするねぇエクタールぅ、そんな奴ぅ連れてくるなんてぇ。駄目だよぉ、こんな森の近くで何するかわからない術師ぃ目が離せないよぉ、連れていくんだよぉ」
「しかし」
「構わない、構わないぞ、エクタール殿。私も術師の業を修めた者、この身一つくらいは守れる」
エオが進み出る。
「エオ殿!」
「ほぉら決まりだよぉエクタールぅ、術師もいいって言ったんだしぃ。
まぁどうなるかは知らないけどねぇ」
幼子はのどを鳴らし、一行を森にいざなった。
2010.06.27