metamorphosis -the decision period-

再会 14


 秋の朝、冷え込んだ空気が霧を産み、『境の森』の入り口が白く霞む。 白霧は蛇の如く這って藪の合間や下草の隙間をうごめき、他の流れに合流していく。
 濃密な湿気。
 踏みしめる草の青臭さ。
 腐臭にも似た、熟れた果実の凝集した甘い香り。
 黒騎士エクタールは己が指を浅く裂き、その血を土に垂らす。
「森のエンディネーミと騎士ダルダイドが一子、名はエクタール。
 見張りの任を委ねた森の番よ、この血に応え、今ここに」
 霧が、動く。
 吸い込まれるように、森の奥へ。
 吐き出されるように、森の外へ。
 吹き付ける風、一行の眼前は白い波に覆われ――
「おやおやぁ、今年は客人の多い年だねぇ」
 ――穴のあいた皮の靴、擦り切れた膝小僧、縫い目がほつれた羊毛の上着、黒ずんだフェルトの帽子、身につけているのは淡い茶の髪の男の子。
 いまだ母に甘えているような、フィリノーフィアと同じ年頃の子ども。
 しかし、その垢の浮いた首の後ろからは、小さく、だが生々しく白くぬらめく茸がびっしりと密集している。
 ひっ。
 身を固める一行の中、アダイの従者が息を飲む。
 エクタールは幼子に告げる。
「我が兄を、呼び出してもらおう」
 首の茸が、風もないのに、わずかに動いた。
 にぃ。
 幼子の唇が、ゆっくりとつりあがる。
「いいよぉ、約束だもんねぇ」
 直後。
「うわああああぁぁっぁぁぁ!」
 従者の少年が、幼子に向かって飛び出していった。
 

   

 2010.06.20