metamorphosis -the decision period-

再会 12


 昼過ぎから天候は崩れ、雨が降り始めた。徐々に街道はぬかるみ、馬も足を取られ歩みが鈍る。
 城壁や村の柵の外は無法の地。猛き王ランシスの治世は進めど、盗人・野盗の類は尽きず、視界の悪い中、狙われては逃げようもない。加え、雨に濡れての移動は体力の消耗も激しく、そこまで急がねばならぬ状況でもない。
 『境の森』まで僅かの道程だが、大事を取って森の近くの狩猟小屋に避難することとなった。
「冬になんねーと狩もねーし、使われてねーならちょーどいいな」
「はいっ! アダイ! 私、火をつけたい!」
「だーーーガキっ、手ぇ出すな!」
「フィリー! 薪を割っている時に手を出しては危ないよ!」
 質素な小屋なこと、床も中央に炉を組んだ土間のつくりだが、備蓄された薪と藁を使えば一晩も過ごしやすい。
 エクタールが従者に補充用の薪を集めるよう言いつけていると、エオが小屋から出てきた。笑っている。
「エクタール殿、小屋の外に、妖精避けをまこうか?」
「ありがとうございます。ぜひ」
 小屋の周囲にまかれるのは、鉄の錆を混ぜた赤い水。妖精は鉄錆を嫌うため、円を描けばその中に入りたがらない。
 昔から幾度も錆をかけられたのか、小屋の周囲にはすでに草が枯れてできた円陣ができあがっている。
 小屋からは相変わらず、元気な騒ぎ声が響く。
「……妹を連れていくと聞いた時は、どうなることかと思っていたが」
 赤い水をまきながら、エオが口を開く。
「ご不安をお掛けしました」
「ああ、いや、それはいいのだ、今は安心している。あれも小姓の変装を楽しんでいるようだし、あのまま館にいてもまた狙われたことだろう」
 エクタールはうなずく。
「人の血をかけたとはいえ、そう長くは妖精たちを騙せますまい。まして離れてしまえば、なおのこと私の血の力は弱まるでしょう」
「……追ってくると思うか?」
「おそらく、それはないかと。
 泉のレイディ以外、館の者は私たちの出発を知りません。まして妹御は、妖精避けを張った部屋でふせっていることになっています。
 警戒が増したことは、相手も気づいているでしょう。また、仕掛けたくともサンプ・リギーはアダイの約束があるので、すぐには彼らは動かない」
「まったく、アダイ殿の機転には感謝だ」
「あの男は、ここぞという時には期待を裏切らないのですよ」
「長いのか?」
「近くの村の出身です。よく森に入りこんでは、母に見つかっておりました」
 周囲を一周すれば、小屋ではまた大騒ぎ。
「きゃーついたついたぁ!」
「火ぃつけたまま薪振り回すんじゃねーーー!!」
 

   

 2010.06.06