metamorphosis -the decision period-

再会 3


 王の供をした三日後、エクタールは王からの呼び出しを受けた。
 城の住人が簡単な朝食を終え、動き始めた午前中のことである。
 訓練中だったため、槍を従者に預けて城の二階にある大広間に向かう。
 朝議の後、民草からの陳情を受ける謁見の前。
 そんな隙間の時刻とあって、城の大広間は多くの人々が出入りしている。
「黒騎士エクタール!
 貴殿になんと感謝を申せばよいかっ……」
 その一角。
 すでに大広間にいた智者ルグはエクタールに駆け寄り、その両の手を固く握った。
「賢者殿、どうかお顔をお上げ下さい。
 ご息女を見つけられたのは、ただ巡り合わせが良かっただけのことです」
「なんと謙虚な……。
 黒騎士殿の礼節は、その武勇と並んで気高いものだ。
 ささ、奥の間に王がお待ちだ。
 貴殿を見込んで、頼みたいことがある」
 ルグはエクタールを連れて王の控えの間に進む。
 奥の間、と聞き、エクタールはその黒い目を僅かに細めた。
 奥の間に入れるのは、智者ルグ筆頭に、王が特に信頼する者のみ。
 そこで開かれる朝議は、短いながらも王の戦略・領地の政治を左右する重要なもの。
 大広間の正式な謁見ではなく、奥の間に呼ばれる、ということは。
「…………王は重大事とお考えか」
 低い呟きが、大広間の喧噪に紛れて消えた。


 ――ウォルドラルドの城下町では、夏から奇妙な事件が続いている。
 子どもが、消えるのだ。
 年の頃は、5つの幼子から13、4の乙女。
 路地裏で遊んでいて、井戸の水くみの途中で、学校の中庭で、教会の帰りで、服も指輪もかぶり物も、遊び道具すら残さずに。
 ふと目を離したすきに、鍵をかけた部屋から消えた幼児もいる。
 年も問わず場所も問わず、物乞いから豪商の子どもまで、消える者におよそ共通点はない。
 当初は誘拐を疑われたが、ヴォルドラルドで一・二を競う豪商にすら身代金を求める手紙は来ない。幼子を失った大商人はその行方に多額の報奨金をかけたが、未だに子どもは見つからない。
 人さらいではないか。
 大陸に売られたのではないか。
 人々が額を寄せて囁く中、王の軍師ルグの娘も消え、城や市街の住民の不安は一気に高まっていく。
 黒騎士エクタールが消えた娘フィリノーフィアを見つけたのは、まさに王が寵臣を見舞う途中であったのだ。
 

   

 2010.03.14