或ル国ノ話

16.conceal and compose their fact



老婦人は女を共犯にする。

「わたくしの養子にしましょう」

老婦人の亡夫の遠縁が遠国で結婚したが、妊娠してすぐに夫が客死。
苦労して首都まで帰国してきたが、両親は死亡、娘の実家は近年の治安の悪化より離散。 縁故を頼り老婦人のもとに身を寄せていたが、心労と長旅での労苦が祟ったのか産辱死。
残ったのは目も開いていない嬰児のみ。

「本当にそのようなご婦人が?」

「実際は、母親も赤子も死んだけれど」

憐れんだ老婦人が赤子をそのまま養子にする。
もともと子供はないために、亡夫の家督はすでに義弟が、老婦人の家督は妹夫婦に継がれている。
養子は老婦人の遺産のみ後継することにすれば、孤児を育てるにも問題は無い。

「……よろしいのですか?」

「そうでなければ言葉にしません。忘れたのですか」

赤子を引き取った老婦人は、亡夫の店より隠居するとして首都から遠く離れた辺境に戻ることを決める。
もとより辺境は老婦人の一族の出身地、勝手知ったる故郷で気楽に商売をしようと調べたところ、近年街道沿いの治安が悪化しているとの報告を受ける。

国境付近で山賊・海賊が発生、越境に際して関税以外に商品の保証金を上乗せしなくてはならず、負担は小売の零細商人から徐々に圧迫しつつあった。
事態を重く見た地元の商人組合は治安回復を計るべく、近隣一の豪商である老婦人の実家と協議を始める。
中央と深い親交を持つ老婦人からの帰郷の連絡は渡りに船で、中央政府へ守備隊の派遣打診を依頼する。

そこへやってきたのが女。
思うところあって中央軍を除隊して首都を離れたいと、恩師である老婦人に今後を相談。
老婦人は即座に女の職歴を商人組合に提示する。

10日後に、辺境州庁に老婦人家と商人組合の連名で提出された師団新設の陳情書には、但書事項に軍事物資の提供と資金援助が明記されていた。

1ヵ月後に、州庁は女を指揮官とした2個師団の新設予定と新兵の募集、6ヶ月以内に国境警備に配属する旨を発表する。

これにより騰貴の兆候を示していた輸入品目(主食となる穀物数品目)は以前の価格へ下落する。

「あなたもわたくしの家に住みなさい。警備が厚くなって好都合です」

「…………ありがとうございます」



女は老婦人と共謀した。



脱稿 2005.03.25