或ル国ノ話

08.the inner past



(秘められるべきものは、全て秘した)


例えばの話。
女と幼女が老婦人の一族の狩猟地で乗馬を練習をしているのを見て、血が繋がっていないと思う者は少ない。
幼女は、女と良く似ている。肌の色、髪の色、目の色、体格、骨格など、老婦人とは大きく異なる。
であるから、周囲の者は――女の部下でさえも――幼女が老婦人と血縁である、という話は、"真実"を隠すためのものであると思っている。


例えばの話。
女がこの国の生粋の出身でないことは、その外見からすぐ、そしてだれにでも分かる。
女は、十数年前から同盟国となった国の民とよく似ている。
であるから、都にいた時代、女が同盟国の有力者の屋敷に出入りしていた時期があったのは、ある者は母国と組んで謀反を企んでいると囁き、またある者は情夫がいるのだと囁いた。


例えばの話。
同盟国の有力者の屋敷で自殺者が出た。
殺人事件であれば都の警備隊の捜査が行われるが、明白に自殺と分かれば警備隊は深入りをしない。
そのような時も、女は通訳として呼ばれて現場に立ち会った。
であるから、担当の捜査官は女の通訳の通りに、説明の通りに報告書を作成し、上司に提出した。


例えばの話。
嘘を長持ちさせるには、"真実"を混ぜれば良い。
その"真実"は何も本当に本当のことでなくともよく、周囲が知りたい、あるいはそう思いたい"真実"でありさえすれば良い。
であるから、女はそうしたのだ。



(あとは私が、死ぬまで心に秘めていれば良いこと)





脱稿 2005.09.14