終幕の訪れは唐突であった。
防音処理された室内から異変を察知するのは困難であったし、また襲撃された側も声を出せない状態にされたことも、男が惨状の第一発見者となった理由の一つであるかもしれない。
しかし最大の原因は、それが計画され演出されたものであったからだろう。
―――血臭。
いつものように隣室に詰めている看護士から女の回復状況を聞き、いつものように部屋の鍵を開かせて入室した男がはじめに知覚したのは、口中に湧き上がる唾液だった。
続いて、鉄錆。
最後に、寝台に鮮紅色。
男の正面には外の路地につながる窓があり、普段は格子もはめられているそこは破られ、大きく開け放たれている。
部屋にいたのは、女と、覆面の侵入者と、黒い大きな
侵入者はぐったりとした女の体を今にも外に投げようとし、
―――鮮血は窓の外へ落ちていく女の喉笛から続いていた。
「追え! 外だ!!」
覆面の侵入者が女の体とともに窓の外へ消え、背後の部下が男の声に弾かれたように動き出す。ある者は通路を駆け戻り、ある者は抜剣して呪犬を取り囲む。
「殺すな。物証だ」
騒然となる周囲の中で、男は奇妙なほどの確信を持って呪犬に近づく。
「閣下、おさがり下さい。危険です!」
押し留める部下を片手で制止し、しかし呪犬から視線を外すことはない。
「手を出すな。確かめることがある」
鋼の剣に囲まれた呪犬は唸りもせず吠えもせず、ただ男を見る。
「この種の呪術生物は、用途に応じて作られる。1匹につきその使い道は1つ、そしてそのほとんどが使い捨てだ。……そうだな?」
「……? ……はい」
男は片膝をつき、「ではこいつの目的は俺を殺すことか」、呪犬に手を伸ばす。
「閣――――!!」
ただ男にたてがみを撫でられるまま。
「
男は、問う。
呪犬は、口中のモノを吐き出し、応じる。
「そうか、お前、お前の、お前のすることはもう何もないか!!」
男は口の端を歪め、その終幕を嘲笑った。
脱稿 2006.05.09
改稿 2009.09.21